私たち社会保険労務士の仕事は、企業における労務管理の整備をサポートすることです。
労働時間の適正化、ハラスメント防止、就業規則の整備など、企業が法令を守って事業を継続できるよう、制度とルールの設計を通じて支援しています。
しかし、日々現場に寄り添う中で、私はこう感じています。
「法律を守ることは大前提。でも、それだけでは会社は本当の意味で良くならない」
これは、制度の整備だけでは解決しない課題に、何度も直面してきたからです。
たとえば、法令通りの労働時間で運営され、就業規則も整備されているのに、職場ではこんな声が聞こえてきます。
・「社員のやる気が見えない」
・「指示待ちばかりで、当事者意識がない」
・「チームがバラバラで、一体感がない」
これらは、制度や仕組みの問題というよりも、「人の心」に原因があることが多いのです。
制度だけでは、人は本気にならない
法令や制度は、いわば「土台」です。安心して働ける環境を整える上で不可欠ですし、企業としても守るべき最低限のルールです。
しかし、いくら制度を整えても、社員が「やらされ感」で働いている状態では、組織は活性化しません。
社員がいきいきと働くためには、「自分の仕事が会社にどう貢献しているか」を実感し、自分の力が活かされているという感覚が欠かせません。
そして、それは制度では生まれません。日々のコミュニケーションや、組織の風土、承認の文化など、人の心に関わる領域でしか生み出せないのです。
社員が“自分事”として動き出すと、会社は自然と変わる
私が関わったある中小企業では、制度改革と並行して、1on1ミーティングの導入を行いました。
それまで上司が部下に一方的に指示するスタイルだった組織に、対話の文化が根づいたことで、社員が自ら目標を立てて動くようになったのです。
また、別の企業では、社員一人ひとりの強みを言語化する「持ち味カード」を活用。
自分らしさを認められた社員たちは、苦手を補い合いながら協働し、チームとして成果を出すようになりました。
これらに共通するのは、「人」に焦点を当てた取り組みだったこと。
制度やルールの改善ではなく、社員の気持ちや行動が変わったことが、職場の空気を変え、最終的には業績の向上にもつながったのです。
やる気を引き出すのは「仕組み」ではなく「関係性」
人は、誰かに認められたり、自分の成果を実感したときにこそ、本気になれます。
逆に言えば、「大切にされていない」「期待されていない」と感じたとき、人は簡単に心を閉ざしてしまいます。
労務トラブルや離職の原因は、「制度の不備」ではなく、「関係性の不足」や「信頼の欠如」にあることも少なくありません。
だからこそ、ルールの整備と並行して、社員の心に目を向けることが、これからの社労士に求められる役割だと私は感じています。
社員がいきいきと働く職場には、共通点がある
多くの企業支援を通じて見えてきた、いきいきと働ける職場に共通する特徴があります。
・社員が自分の強みを理解し、それを活かして働いている
・上司と部下が定期的に対話を重ね、目標や想いを共有している
・挑戦を称え合う文化があり、失敗しても前向きに捉えられる
・会社のビジョンと社員の行動が結びついている
これらの職場では、社員が自分の頭で考え、主体的に動くことが当たり前になっており、結果的に業績も安定しやすくなっています。
ルールではなく、人の力によって会社が動いているのです。
法律の“その先”にこそ、本当の支援がある
私たち社労士の専門は法律です。
しかし、「法律を守るだけで終わっては、会社の未来は変えられない」と感じています。
制度を整えつつ、人が前向きに働ける職場をどう育てるか。
この“法律のその先”にこそ、私たちの存在価値があるのではないでしょうか。
「社員がもっと前向きに働いてほしい」
「制度はあるのに、なぜかうまく機能していない」
そんな悩みをお持ちの経営者の方こそ、“人の力”に目を向ける時期なのかもしれません。
最後に:制度と人をつなぐ存在として
人は、制度が整っているだけでは動きません。
動機づけの根底には、「信頼されている」「必要とされている」「認められている」という感情があります。
私たちはこれからも、法令を軸にしつつ、「人の本質」に寄り添う支援を続けていきたいと考えています。
人が変われば、職場が変わります。そして、職場が変われば、会社の未来も変わっていくのです。